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安定同位体比に基づくレプトセファルス幼生の摂餌生態


 炭素窒素安定同位体比を用いた研究では、ウナギのレプトセファルス幼生が海流に乗って日本に辿りつくまでどのような餌料環境にいたか、どのような食性を持っていたかが明らかになってきています。一般的に、栄養段階が1つ上がる度に炭素安定同位体比は1‰、窒素は3‰程度上昇します。体長10-20mmにおけるニホンウナギのレプトセファルス幼生期の体長と炭素・窒素安定同位体比の間には有意な相関はなく、この成長段階では、餌を変化させていない可能性が高いことが分かりました。ところが、同じ海域のアナゴの一種アリオゾーマと比較したところ、ニホンウナギに比べて有意な差が認められました。幼生の餌と考えられている海水中の懸濁態有機物の安定同位体比は、水深が深くなるにつれて窒素は高く、炭素は低くなる傾向が認められ、アリオゾーマのレプトセファルス幼生はニホンウナギよりもさらに表層で摂餌している可能性が高いことが分かりました。幼生の分布や輸送メカニズムに関する研究では、数値シミュレーションやブイ追跡による研究に拠るところが多いが、炭素窒素安定同位体比を分析することで、単に摂餌生態だけではなく、レプトセファルス幼生の詳細な輸送経路が推測できる可能性を示したことにも本研究の意義があり、北赤道海流域の食物連鎖網の解明に向けた一助になるものと考えています。