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エルニーニョの影響を受けた幼生の輸送拡散機構


 産卵海域にある塩分フロントはハワイ沖からの強い蒸散作用を受けた高塩分水と熱帯特有の降雨がもたらす低塩分水によって形成され、エルニーニョが発生すると降雨の源となる積乱雲が東へと移動するために塩分フロントは南側に移動します。もし塩分フロントが産卵の目印となっているとすれば、エルニーニョに対応した日本沿岸へのシラスウナギ来遊量の変動が認められるはずであり、事実、エルニーニョが発生するとシラスウナギの採捕量が減少します。また、エルニーニョが発生年に実施した白鳳丸観測でも塩分フロントの南下に伴ったレプトセファルス幼生の分布の南下も認められ、その役割を強く裏付けています。塩分フロントの南北では、レプトセファルス幼生の餌となる海水中の有機懸濁物質の炭素安定同位体比が大きく異なっており、塩分というよりも水質の違いがランドマークとなっているのでしょう。一方、北赤道海流が黒潮とミンダナオ海流へと分岐するフィリピン東部で、仔魚が間違って黒潮とは逆のミンダナオ海流方面に流されてしまうと、成育ができずに死滅回遊となってしまいますので、フィリピン東部での黒潮への乗り換えが生き残りのための重要な条件になります。数値シミュレーションによる比較実験では、エルニーニョが発生するとその分岐位置が大きく北に移動するため、黒潮へ仔魚が取り込まれる量が半減し、エルニーニョの影響を裏付けています。