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黒潮前線波動に伴う低気圧性渦の低次および高次生物生産機構


 これまでの遠州灘を対象とした観測と数値シミュレーションに基づいた研究から、渦一個当たりの基礎生産量は炭素量で4×104トン程度と見積もられ、遠州灘沿岸域全域に渦による生産の影響を広げた場合、この渦による基礎生産は40gCm-2y-1と推算されました。この値は、大西洋の湾流での類似した推定値とよく一致し、西岸境界流域のフロント付近の擾乱が、互いに同じ程度の規模の生物生産をもたらしていると考えられます。また、過去に推定された遠州灘沿岸域の基礎生産量と比較すると、この渦による基礎生産量はその1/3に相当し、沿岸での基礎生産を考える上でもこのような低気圧性の渦は無視できないほどに大きな現象であることが分かってきました。渦域では、発生直後に鉛直的な混合が起こり、水深30mと50mの硝酸態窒素濃度比は1となりますが、時間が経過し濃度比が下がるに連れてクロロフィル濃度が増加していきます。それに伴ってcopepodnaupliiの密度も増加し、それらの密度が最大となったところでカタクチイワシの卵と仔魚が濃密に分布していました。これはつまり、渦の生成が二次生産にまで影響していることを示唆し、稚仔魚の餌となる低次生物生産、ひいては稚仔魚の生残が黒潮フロント域における鉛直的な物質の輸送によって支えられていること、また、そのような稚仔魚にとって生残の良い海域での親魚による選択的な産卵があることを示唆しています。