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黒潮前線の時空間構造とその変動がブリの回遊に与える影響


 本州中央部の太平洋側に位置する熊野灘・遠州灘は、マイワシやカタクチイワシなどの多獲性浮魚類の主要な産卵・成育場となっており、中でも遠州灘沿岸海域ではそれらの仔魚を対象とするシラス船曳網漁業が盛んで、熊野灘沿岸海域ではブリを主要な漁獲対象とする定置網漁業が行われています。この海域における水産生物の経年的な資源量変動や回遊魚の短期的な来遊には、沖合を流れる黒潮の数年から十数年の長周期で繰り返される大蛇行・非大蛇行といった流路変動と、数週間から数ヶ月の短周期で発生消滅する黒潮系暖水の流入といった中小規模現象の影響がともに重要であると考えられ、1980年代に係留系による流動観測が白鳳丸や淡青丸を用いて精力的に推進されるようになりました。この研究では、20日および50日前後の周期の時間スケールを持つ黒潮前線波動の動態を明らかにし、熊野灘・遠州灘の沿岸で認められる水温の周期的な変動は、100 - 400 kmの波長を持つ黒潮の前線波動や小蛇行に伴う暖水流入によって引き起こされるものであること、また、沿岸水温が同位相で変動している場合は陸棚波としての伝播が影響していること、さらに、それらの周期変動が熊野灘・遠州灘沿岸のブリやイワシ類シラスの漁況を短期的に変動させることを明らかにし、その後の研究で、黒潮の再循環過程と水塊混合効果が低次生物生産ひいてはシラスの成長・生残にとって重要であることを示すことができました。今日でも魚類回遊に果たす黒潮の障壁効果を統計的に有意に実証することは難しく、とくに衛星データが不十分な時代では困難でありました。そのような状況で、当時あまりなされることの無かった陸棚斜面上で係留系による流動観測を精力的に行ったことは画期的で、陸棚上と沖合域の流動構造をつなぎ黒潮の内側反流や暖水流入を時空間的に詳細に表現し、魚類回遊に果たす黒潮系暖水の影響が明らかにできるに至りました。