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地球温暖化に伴うクロマグロの成長・生残


 北太平洋亜熱帯循環系に属する北赤道海流域や黒潮上流域では、ニホンウナギやクロマグロなどの大規模回遊魚の産卵場となっています。この海域における卵・仔稚魚の輸送環境を含めた環境要因の変動は、それらの資源量変動や回遊過程に重大な影響を与えています。その中で、地球環境の温暖化に伴う生物の応答メカニズムを検討することは、地球温暖化予測モデル結果を活用した生物輸送・生残シミュレーションのための基礎的な情報を得る上で重要な研究となっています。  今までに水産総合研究センター奄美栽培漁業センターの協力を得て、クロマグロ仔魚の飼育実験を行ってきました。その結果、卵の発達段階は高温ほど速い傾向にあるものの、最終的なふ化率は28℃以下では温度による有意な差はなく90 %以上になるのに対して、29℃以上では高温になるほどふ化率は低下しました。ふ化までに要した積算水温とふ化率の関係は、実験水温26℃以上の試験区では積算水温750 (℃・hr)近傍に集中していましたが、23℃ではふ化に要する積算水温は850 (℃・hr)と非常に大きくなりました。これは、アレニウスプロットから分かった「26℃より低温では卵内の生化学反応速度と水温の関係式が異なる」、という結果を支持するものです。29℃では、産卵後に生残率が大きく下がり始めることから、29℃はクロマグロ仔魚の生残にとって危険な温度帯となります。一方、核酸比を用いた検討では、23℃では高水温で成長が良いものの極端に成長が悪く、被食も考慮に入れた初期生残を見積もると、23℃でのふ化は26℃でのふ化と比較して非常に不利であると予想されます。結論として、26±2℃での産卵・ふ化が、クロマグロにとってその後の高い生残率を獲得出来る適水温であると考えられるのです。