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海洋環境の変動がマグロ属魚類に与える影響


 太平洋に広く分布するクロマグロは、北緯30度より南、黒潮の東側にその産卵域を持っています。南西諸島付近では5月から6月にかけて、6月から7月には本州南岸沖に、そして7月から8月には日本海で産卵が行われることが分かっています。クロマグロは表面水温25度から26度、水温躍層が50m以浅の水域で産卵します。クロマグロの分布域に比べると、その産卵域は非常に限定されたものであることがわかります。産卵域の環境の変動がクロマグロの産卵生態に与える影響は測り知れません。そこで、本研究室では海洋環境の変動がマグロ類の行動・生殖にどのように影響をするのかを調査しています(写真1)。

 クロマグロの卵や仔魚に水温の変化はどのように影響するのでしょうか。飼育水温を産卵水温に比べ高く設定した場合と低く設定した場合とで飼育実験を行った結果、卵や仔魚の生残や正常な発達は高水温・低水温では阻害されることがわかりました。核酸比や酸素消費量、奇形率などの調査により、海水面の温度上昇はクロマグロの産卵に大きな影響を及ぼすことがわかってきました。

 また、クロマグロ稚仔魚の耳石を調査することにより、彼らの経験水温や海洋環境を推定しようという試みも行われています。耳石の酸素安定同位体比は彼らがさらされてきた海洋環境を克明に記録しています。産卵海域を耳石により判別できれば、太平洋に広く分布するクロマグロの個体群の変動や私たちが資源として利用しているクロマグロがどの産卵場由来のものかがわかります。私達が行っている研究は、今後クロマグロの資源量調査において非常に大きく貢献すると考えられます。

 さらに加えて、北太平洋のビンナガ(T. alalunga)に関して、成長段階別の回遊経路と回遊範囲、回遊に影響を与える環境要因を特定することに焦点を当て、産卵から成魚に至る分布の時空間構造とその変動機構についての研究を行いました。その結果、6才魚を境にして回遊経路が大きく異なり反時計回りの循環を形成すること、太平洋中央部に分布していた高齢魚がエルニーニョによって太平洋東部に移動することなどが分かっています(図1)。


写真1 クロマグロ仔魚 図1 エルニーニョがビンナガ魚獲に及ぼす影響