マグロ属魚類の体温保持機構
クロマグロの体温は、基本的に水温よりも高く保たれています。水温が低くなるにしたがい体温と水温の差が大きくなる傾向が見られました。数理モデルから、体温保持には熱的慣性や高い産熱速度が重要であることが分かっています。その産熱速度を計算したところ、クロマグロは他の魚類とは異なり、哺乳類並みに高い値であることが分かりました。つまり、摂餌のために水温躍層下の低水温環境へ移動する際、ごく短時間であれば腹腔内温度を維持できることが分かってきています。しかしその反面、一旦下がってしまった体温を環境温度まで瞬時に回復させる能力は劣っています。(図1)、そのため、基本的には表層に滞在し、摂餌のために冷水温域に侵入するといった行動的体温調節を行っていることが推察されます。また、鉛直行動は日照量にも左右され、照度が低下する日は鉛直移動頻度とこれに伴う体温変動が減少することも分かりました。
体のサイズの大きい個体ほど体温と水温との差が大きくなる傾向にあります。しかし、温度差の増大する割合は成長に伴い小さくなり、平均体温が30℃を越えることはありません。数理モデルにより、成長に伴い体の断熱性が増大する一方、産熱速度は減少することが示されています。その結果、体温が致死温度には至らず、成長しても温帯域で活動することを可能にしており、ひいては本種を魚類の中で最大級にまで成長させる要因のひとつとなっていることが分かりました。
現在、熱帯域に生息する大型マグロであるキハダ(T. albacares)についてもその回遊機構を解明すべく、同様に小型記録計での調査・解析を行っています(写真1)。
図1 マグロ類の体温の回復時間(シミュレーション) | 写真1 キハダへの小型記録計取りつけ |