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アカウミガメ幼体の産卵巣脱出に与える踏圧の影響


 アカウミガメ(Caretta caretta)は環境省のレッドデータブックにおいて絶滅危惧種に指定されており、個体数の減少要因として、海洋での混獲、産卵砂浜の減少が考えられています。加えて近年では、孵化幼体の巣からの脱出率の低下と砂浜の利用者増加との関連性も指摘されています。幼体の巣からの脱出過程に影響を及ぼす人為的要因を把握することは、希少動物の保護・生物多様性の保全のみならず、エコツーリズムなどのレクリエーションを持続可能なものにして、漁村を活性化させるという意味でも極めて重要です。

 本研究・調査結果から、巣から幼体の脱出が阻害される過程について以下のことが明らかになりました(図1)。人間が巣を踏むと、巣上部の砂の密度が高まり、上部の熱伝導率が低下します。そのため巣内で卵・孵化幼体の代謝熱によって巣内の温度が上昇。高温になると幼体は活動性が低下するため、巣から脱出することができなくなり、細菌感染症などを引き起こし斃死してしまうのです。このような人為的要因による孵化幼体の脱出率の低下を軽減するためには、孵化期間中、産卵巣の集中する植生帯付近を立ち入り禁止保護区にすることが必要なのかもしれません。


図1 人間による踏みつけによって巣に加えられた積算圧力と幼体脱出率との関係


参考文献

  • 工藤宏美・北川貴士・木村伸吾・渡辺達三.(2004) 屋久島におけるアカウミガメ孵化幼体の脱出に与える踏圧の影響.水産海洋研究68,225-231.
  • Kudo, H., Kitagawa, T. and Kimura, S. (2003) Effect of beach use and environmental conditions on emergence success of loggerhead turtles in Yakushima Island, Japan. Proc of the 3rd SEASTAR 2000 workshop, 49-52.
  • Kitagawa, T., Kudo, H. and Kimura, S. (2003) Hatchling transport of loggerhead turtles in the North Pacific. Proc of the 3rd SEASTAR 2000 workshop, 39-44.